「百女百様 街で見かけた女性たち」
はらだ 有彩(内外出版社 2020年)
「服はその人を映す鏡」、「服に着られている」…服と人間を表す言葉は多い。また衣食住という言葉が示すように衣服は人間が生きていくうえで欠かせないものだ。服は人の命脈を保つためだけではない。人間と服はほとんどの時間共にあり、服装が人の判断基準に大きくかかわってくることも少なくない。他者を眺めるとき、その顔ではなく服の方を見ていることの方が多いのではないか。顔をじろじろ見るのは不躾だ。だが服には見つめ返す眼球や、見られていることを知覚してくる意識など存在しない。それでいてその人のセンスや立場が一目見てわかるのだ。他人を見るときこれ以上の判断材料はないだろう。それは時に残酷な視線、人々を選択から引き剥がして型に嵌める行為にもつながる。
このエッセイ『百女百様』は著者のはらだ氏が街中で見かけた女性たち(?)とファッションについて記したものである。老若、国籍、時に時代も飛び越えて様々な女性の服が交差する。思わず眼に入って、それで一本の文章が書けるほどなのだから彼女たちの服は印象的だ。電車の中の漢服、街中を歩くロリータ服と着物の二人組、完璧なボブのウィッグ…。くったりとリラックスしたものから華やかな装いまで千差万別な彼女たちのスタイルを出発点に、「女性」というものが社会的にさらされてきた視線へと話はシフトしていく。服飾史、そしてジェンダー史、社会の様々な問題意識と服が交差するのだ。はらだ氏のイラストがエッセイとともに掲載されているのだが、それらがまた魅力的で、はらだ有彩自身の驚きを視覚としても追うことができる。
思わず眼で追ってしまうような彼女たちのスタイルが持つ妙味は、誰かにとっての違和感や地雷、あるいは天啓や変化の予兆といった風に受け止め方は様々であろう。誰かの眼から記憶に残り言葉が生まれれば、無名の彼女たちは単なるファッションスクラップの域を飛び出し、「服を着る」ということからあらゆる社会の議論や言葉へと接続する契機となり、そして衣服における「普通はさぁ…」という言葉で殺されていく憧れや勇気をそっと救い上げる。
書き手 上村麻里恵
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