瀬尾まいこ 卵の緒 新潮文庫 2007年
小学生の育生は母親・君子と二人暮らし。育生は母と血のつながりがないが、母親は彼のことを誰よりも愛してくれる。ある日学校で「へその緒」のことを知った育生は母親にへその緒を見せてくれるように頼む。そこで母親が箱から取り出したのは卵の殻だった…。
何よりもこの小説の特色はすっきりとした軽快な会話とモノローグだ。ユーモラスで温かな会話が登場人物たちの間を流れる。時に深刻で重苦しい空気が流れてもおかしくない状況になってもそれは変わらない。信頼し合っている人たちの会話はとかく温かい。特に母親・君子の愛情はサラッとしているようだが、覚悟を貫き通しているように思われる。
…(中略)…
母さんはそう言ってけらけら笑うと、僕の目を覗き込んだ。
「母さんは、誰よりも育生が好き。それはそれはすごい勢いであなたを愛しているの。今までもこれからもずっと変わらずによ。ねえ。他に何がいる?それで十分でしょ?」
僕は頷いた。捨て子疑惑はまるで晴れなかったけど、これ以上考えて毛が抜けたら困るから。この母さんなら卵で僕を産むこともありえるだろう。それに、とにかく母さんは僕をかなり好きなのだ。それでいいことにした。禿げないためにもそう思い込むことにした。…(後略)
(引用:文庫版21頁より)母の態度はどこか飄々としているが、己の決断と絶対の自信を持ち、どんなことがあってもそれを貫き通す。理屈がとにかくありがたがられる時代に、息子の育生も果てや読者も「それでいいことにした」と思えてしまうような信念は心地が良い。
この作品に収録されているもう一つの家族の物語「7’s blood」もとある特殊な姉弟の物語だ。こちらの登場人物たちからも微笑んでしまうような潔さ、心地の良い読了感を味わえるだろう。
書き手 上村麻里恵
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