夢破れた全線開業~旧国鉄美幸線の軌跡 特別編 期待と落胆(後編)予算ゼロ「冗談でない」列車一度も走らず幻の鉄路に
美幸線の全線開業を待ち望んでいた裏で、国鉄が膨大な負債を抱えていたことを理由に、運輸省は1979年度(昭和54年度)の日本鉄道建設公団AB線(地方開発線・地方幹線)の建設予算を凍結した。
79年8月28日、鉄建公団総裁・川島広守が美深町内を訪れ、美深町長・長谷部秀見、歌登町長・合田英雄、枝幸町長・三浦進、美幸線敷設促進期成会長・西尾六七(道議会議員)は「一日も早い今年度分の着工と早期完成を」と述べ、予算凍結解除と工事再開を強く要請した。川島は「国鉄は単にモノを運ぶのではない。文化を運び、心と心を結ぶという役割がある。数値で計り、スピードだけをうんぬんする風潮は戒めねばならぬ。美幸線については、全線開通に向けて献身の努力を払うことをお誓いする」と語った。
だが、80年4月25日、80年度のAB線建設予算がゼロと発表され、長谷部は「冗談でない。このままでは済まされぬ問題であり、早速上京し、鉄建公団と話し合ってくる。私が事前に鉄建公団と協議した内容と話が違っており、何か事情があったのだろう。とにかく予算ゼロという結果にはさせないつもりだ」と語り、強気の構えだった。
80年9月に「美幸線全線開通早期実現歌登町住民大会」を開催。合田は「路盤工事は全区間完了し、あとはレールの敷設と駅舎の建設を残すだけ。既に132億7300万円の巨費が投ぜられている。美幸線の開業に先立って歌登町の簡易軌道を撤去した経過もあり、何としても開業してもらわねばならない」と訴えた。
さらに「仁宇布から枝幸までの未開通部分の全路盤が完成している今日、凍結されている予算の配分と執行が早急になされ、昭和57年度(1982年度)開業の実現を関係当局に強く要請する」と大会決議を採択。3400人の署名簿を添え、町民の総意として運輸省や国鉄へ提出した。
84年10月2日付の名寄新聞の企画記事「瀬戸際の美幸線」でも、歌登駅予定地にコンクリート製枕木がうず高く積まれたところで建設工事がストップし「かけがえのない町営軌道を撤去したのに、赤字だから切り捨てる―では納得できない」という町民感情が強かった。
歌登町役場企画財政課長は「北海道が第3セクター化に出資しないのなら、鉄路で分断された畑を元に戻せ―と言いたい気持ちだ」。
歌登町農協参事は「赤字だから過疎地の者が負担せよ―では国鉄はあまりにも無責任だ。北海道がその先棒を担ぐことはしないだろう。第3セクター見送りでは住民があまりにもかわいそうだ」。
歌登町商工会事務局長は「全線開通は町を挙げての念願。町営軌道を外してまで建設を待ち望んだ。あれだけ路盤を作り、いま投げるのでは情けない」と嘆いた。
しかし、3セク化は検討されるも、収益が見込めずに断念した。

この頃、歌登駅予定地にはレール(長さ25m)1300本とコンクリート製枕木2万数千本が山積みにされていた。歌登町史第2巻(96年発刊)によると「レールは赤錆びて夏草に埋もれ、いつ開業するやら、と先の長さと拭い切れない不安が漂っていた」とある。
85年(昭和60年)9月17日の美深~仁宇布間の廃止後、鉄建公団は「青函トンネルの開通に合わせ、複線化に使用したい」として、歌登、枝幸両町にレール搬出の了承を求める一方、85年10月から大型トレーラーで搬出作業を開始したが、歌登町は「路盤を元の姿に戻して農民に返還してほしいという地元側の要望があったのに、何の回答もせず一方的にレールを運び出されては困る」と訴え、町有地に除雪用車両2台を並べ、トレーラー運行阻止の行動に出た。半世紀にわたる全線開業という住民の悲願が無残に打ち破られ、住民感情が許さなかった。
鉄建公団は歌登町内を通らず、枝幸町金駒内付近で道道から美幸線の未成区間に入り、路盤上を走行する方法を取ったが、狭い路盤で交通事故発生の恐れもあり、歌登町では86年2月に除雪車を取り除き、町有地内の通行を認めた。
91年(平成3年)に枝幸町市街地の高架橋を撤去し、93年からは歌登町内の橋梁解体工事が開始されたが、歌登町史第2巻には「列車が一度も走ることなく消えた幻の鉄路である。その夢の跡に作業の槌音が降りしきる雪の中にこだました。しかし、この音は建設の響きでなく破壊の響きである。町民にはもはや何の感動も呼ぶものでもなかった」と無念さをにじませている。
85年9月の美幸線廃止から37年を迎えた現在、枝幸、歌登、美深町民で年配の世代は「いつか美深、枝幸までつながると思っていたのに工事凍結はあんまりだった」「せっかく鉄道のために農地を提供したのに」「あれだけトンネルや橋をつくっておいて全部無駄になった」と当時を思い起こすが、若い世代では「工事していたという話は聞いたことがある」という程度で詳しくは知らない様子。美幸線を知る世代は確実に少なくなっている。
(敬称略)

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