「春のウサギ」
ケヴィン・ヘンクス 作原田勝、大澤聡子 訳
「春のウサギ」を読んで、私は四十年ほどタイムスリップした。退屈な農村風景に、小突き合ったり、啖呵を切ったり、体も心も生傷の絶えない少年少女たちが見える。孤独だったあのとき、寄り添うひとがいてくれたおかげで救われて。寂しそうな後ろ姿を見たあの日、声をかけてやる勇気があればよかったのに…。
さて。主人公アミーリアは、アメリカの小さな町に住む十三歳の女の子だ。親友がフランスに越してしまってからというもの、学校はまるで冷え切った世界だった。
十代の瑞々しくて傷つきやすい心を持て余し、思ってもみないことが起こりそうな、そんな予感の春休みがスタートした。近所の陶芸教室は彼女の宝物のような場所。こねた土で、いろいろな形のウサギをつくっていく。すると学校での心配事も、将来への不安も、無理解でカタブツな父親へのいら立ちも、消えてなくなるのだ。
そんなある日、陶芸教室に突然現れた風変わりな男の子をきっかけに、彼女の日々は思わぬ方向へ転がってゆく。亡き母親との不思議なめぐり逢いを軸として。
作者のケヴィン・ヘンクスは一九六〇年生まれのアメリカ人作家で、他の作品や絵本が日本で多数出版されている。本作の爽やかな読後感で、こどもたちも、大人だって、きっと全作品を読まずにいられないはず。そう、ひとときティーンエイジに戻った私のように。
小学館、1540円、2021年発刊。
(新田博之・市立名寄図書館 館長)
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