心不全の薬物治療
名寄市立総合病院 循環器内科医長 豊嶋 更紗
心不全の治療は大まかに薬物治療と非薬物治療の2つに分けられ、薬物治療は心不全治療の基本と言われています。心不全の薬物治療の目的は大きく分けて2つあり、1つは息切れやむくみなどの症状を改善すること、もう1つは予後を改善する、つまり心不全による入院を予防し、死亡率を下げることです。
心不全の症状を改善する代表的な薬物は、利尿薬です。心不全になると体内に水分とナトリウムが貯留し、息切れやむくみなどのうっ血症状が出現します。利尿薬はこれらの水分やナトリウムを尿中に排泄することで、うっ血を改善し症状を軽減します。しかし、利尿薬は心不全症状を改善するものの、予後を改善する効果はありません。
心不全の予後を改善する薬物には、fantastic four（ファンタスティックフォー）と呼ばれる4種類の薬物があります。1つ目はアンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬（ARNI・アーニー）、2つ目はβ遮断薬、3つ目はミネラルコルチコイド受容体拮抗薬（MRA・エムアールエー）、4つ目はSGLT2（エスジーエルティーツー）阻害薬です。（図）
1つ目のARNIと4つ目のSGLT2阻害薬は、心筋梗塞などの心血管イベントによる死亡率を低下させ、心不全による入院を予防することが示されています。2つ目のβ遮断薬と3つ目のMRAは、全ての要因による死亡率を低下させることが示されています。これらの予後改善薬は、心臓のポンプの働きである左室収縮能によって使用が推奨されている薬物が異なり、左室収縮能の低下した心不全ではこれら4つのfantastic fourをより早期から開始し、増量することが勧められています。
しかし、左室収縮能の保たれた心不全や左室収縮能が軽度低下した心不全では、これら4つの薬剤のうち4つ目のSGLT2阻害薬のみが予後改善のエビデンスを有しています。fantastic fourはそれぞれ血圧が低くなる低血圧や脈が遅くなる徐脈、K（カリウム）値が高くなる高Ｋ血症などの副作用があります。これら副作用に留意しながら、内服を継続することで予後改善の効果が示されているため、心不全症状が軽快してからも内服し続けることが重要です。
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