仁宇布~北見枝幸間の路盤が完成し、レール敷設などを残した段階で、国鉄の膨大な負債を背景に「国鉄再建法」が公布。廃止対象の第1次特定地方交通線に加えられ、工事は凍結。しかし、沿線3町はここでは諦めず、第3セクターによって全線開業を目指そうとした。
美幸線敷設促進期成会は1982年4月24日、3セクでの運営を打ち出し、道も検討に加わった。3セクなど国鉄以外の経営に移す場合、日本鉄道建設公団が未開業区間を完成させ、施設や設備を無償で貸し付ける方針に望みをかけた。82年9月30日の第1回特定地方交通線対策協議会に臨み、美深町長・長谷部秀見は「協議会の決定が出た後は直ちに仁宇布~枝幸間の工事再開を。3セクは全線開通後の問題であり、それまでは国鉄が運営してほしい」と訴えた。 美深・歌登・枝幸の沿線3町は82年11月に民間コンサルタント会社へ経費、収支、将来展望の調査を依頼。83年4月に結果が届いたが、住民や議会にも公表されなかった。次第に調査結果が明らかになり、3セク転換を5つの条件に分けて収支を試算していた。
最高の条件では除雪費負担なし、要員30人、中古気動車3両、運賃は現行(84年)比2倍で85年に開業し、以降2年ごとに20%値上げした場合、全線開業の87年は1億5千万円の赤字だが、95年には9千万円の黒字に転換するという。営業は1日7往復(1両ワンマン運転)とした。 人口予測は美深、歌登、枝幸、浜頓別、雄武、興部の6町の80年実績が4万2155人に対し、2000年予想は5万6千人(実数は3万2249人)。需要予測は輸送密度(1km当たりの1日平均輸送人員)が1985年に264人/日、2000年には418人/日と見込んだ。 このような調査結果に、同協議会のメンバーからは「人口増、観光客増の見積もりが甘い」「要員数が足りないのでは」「運賃値上げによる旅客減が見込まれていない」などと指摘された。
一方、道では1983年10月、転換可能性調査を民間コンサル会社に委託。要員39人、中古気動車2両と新車1両、運賃は現行比1.5倍で開業し、以降2年ごとに15%値上げした場合、収支予測は最も良い条件でも全線開業の87年に2億9千万円の赤字、2000年には3億2千万円の赤字。転換交付金を積み立てた基金の利息、国庫補助を受けても要補てん額累計(累積赤字)は2000年に37億円と推計した。営業は1日7往復(1両ワンマン運転)とし、輸送密度は1987年に211人/日、2000年でも249人/日に留まるとした。 期成会は1984年9月に修正案を示し、要員25人(うち一般職22人)、中古気動車3両、運賃は現行比1.5倍で開業し、以降2年ごとに15%値上げ、営業は1日7往復(1両ワンマン)で運行すると、87年度に1億2600万円の赤字、92年度に6600万円の赤字だが、97年度には3100万円の黒字に転換すると予想した。
87年時点で3セクの要員は道案39人に対し、期成会案25人。人件費は道試算年間2億円、期成会試算年間8300万円。動力費は道試算年間4800万円、期成会試算年間2900万円。管理費は道試算年間2200万円、期成会試算年間1300万円などと見込んだ。 期成会は要員や人件費などを道試算よりかなり低く見積もったが、国鉄OBからは「保守要員が少なく、豪雪地帯の運行に支障が出る。運転要員も少なく、高齢の国鉄OBのワンマン運行では不安」「トンネル保守、燃料代の見積もりが甘い」などと実現を疑問視。期成会の甘い見通しに対し、道は3セク化に難色を示すようになった。
(敬称略 続く)
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