クロコダイルとイルカ
絵/あべ弘士 作/ドリアン助川(映画『じんじん』事務局 2013年)
北海道にある絵本の里をご存知だろうか。
絵本の里とは、旭川市から約50キロ離れた剣淵町のことだ。昭和63年に地元の若者たちが町おこしの一環として始めた、絵本に関わる様々な活動がその発端となった。剣淵町にある絵本の館では世界中の絵本約45000冊が収蔵されており、まさに絵本の天国である。
そして今回紹介する『クロコダイルとイルカ』は、そんな絵本の里けんぶちと密接に結びついている。
内容としては、乱暴者で皆に嫌われているクロコダイルが、かわいいイルカの女の子アヤカと出会って恋をする、切ない心情を語った物語だ。クロコダイルのさみしさや純で素朴な恋情、切ない結末など、恋を経験したことのある大人にこそ沁みる言葉の数々に、思わず夢中になってしまう。
なぜこの作品が剣淵町と関わりがあるのか。実はこの絵本は、2013年上映の『じんじん』という映画に登場する話を元に作られているのだ。『じんじん』の舞台となるのがまさに北海道剣淵町であり、大道芸人をやっている主人公銀三郎(大地康雄)が、離ればなれになっていた娘へと宛てて作った絵本こそ『クロコダイルとイルカ』である。普段は宮城県松島に住んでいる銀三郎だが、毎年恒例となっている北海道の友人の手伝いをしに行くと、昔離婚したことで生き別れた娘と偶然再会する。銀三郎も娘も人間関係に悩みながらも懸命に生きるという心温まるヒューマンドラマだ。
町おこし、北海道という自然の中での農業体験、出会いと別離の切なさがテーマとなっている。映画同様に絵本でも、そうした誰かを思う気持ちの温かさが素朴に表現されている。
「なまえがあるのはいいなあ、とおもいました。きっと たいせつにおもわれたから なまえがあるのです。」
『クロコダイルとイルカ』の中で、私が一番好きな文だ。作中作だからこそ、特別で大切なあなたに伝えたいという作者の思いが見え隠れする。
ところで、絵本の絵を担当したあべ弘士は、かつて旭山動物園の飼育員をしていたことがある。クロコダイル、イルカをはじめ、ウミガメやカツオドリなど様々な動物たちが登場するが、水彩とクレヨンでくっきりと描かれる彼らは、さすが特徴を捉えた分かりやすい描き方がなされている。物語が進むにつれ、クロコダイルが大海へと泳ぎだすシーンの遠景も、華やかで大胆な色使いによって自然の広大さが感じられる。
北海道に住む私たちには、より身近に、特別に思える絵本だ。人の温かみに触れたい時、映画も併せてぜひご覧になっていただきたい。
書き手:小松貴海
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