きりのなかのはりねずみ
ノルシュテインとコズロフ作、ヤールブソワ絵、こじまひろこ訳(福音館書店 2000年)
夜道、恐ろしい物語を聞いた後で1人になった時、やけに巧みに想像力が働いたり何か忘れ物をしたような心もとなさを覚えることがある。『きりのなかのはりねずみ』で夜の霧中を歩くはりねずみを見るとその気持ちが蘇ってくるようだ。
本書の原作者の1人でロシアのアニメーション作家のユーリ・ノルシュテインは切り絵を用いた作品を手がけ国内外で多く手がけている。今回紹介する『きりのなかのはりねずみ』が基にしているのは彼の代表作にも数えられている短編アニメーション『霧につつまれたはりねずみ』だ。絵本では同じくアニメーション作家であり、ノルシュテインのパートナーでもあるヤールブソワが全編絵を手がけた。
こぐまのところへ星を数えながらお茶を飲むためにはりねずみが道中で小さな冒険を繰り広げながら夜の森を歩くというストーリーで、道中には様々な動物が登場して時にはりねずみを驚かせたり、助けたりする。アニメーションと絵本の内容はほぼ同じである(はりねずみの名前がアニメーションではロシア語でハリネズミを意味する「ヨージック」と呼ばれているなどのわずかな違いはある)。メディアという最も大きな違いに関しても、映像から絵本にその形態が変わっても霧の中を歩くことの不透明さをよく伝えている。むしろ捲らなければどうなるかわからない本の特性が霧中のはりねずみが置かれている状況と重なるような効果をもたらしている。
作中の描写による効果にも目を向けてみる。こぐまの家へと出発するはりねずみは道中目にした白い馬の姿を見つけたことがきっかけで霧の中へと入っていく。夜霧の中では(その前からも)様々な動物が現れるが、彼らはたとえ親切であっても必要以上にはりねずみと接触することはない。それゆえに彼らと霧の中で一人ぼっちのはりねずみとで自他の境界のようなものを感じ、森の中で自身が一人ぼっちであることの心情がいつしか私たちと同期する。絵本の描く孤立の感覚は、私たちの感覚をも鋭敏にさせるのだ。動物が生き生きと思考するファンタジックな世界観でありながら現実における自分とそれ以外の間に明確な隔絶を感じさせることによって、己がなんでもコントロールできると感じる(錯覚する)全能感は消え、環境に命運が委ねられている様をはりねずみを通して私たちは実感せずにはいられない。
大きな自然が持つ美しさを描きながら、その中に生きる生命のありようがこんなにも不安定であることをを同時に再現したファンタジーであると言えよう。
書き手:上村麻里恵
※この絵本は、8月12日13日名寄市で行われる「ちびっこフェスティバル」で販売いたします。
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