もこ もこもこ
作・谷川俊太郎 絵・元永定正(文研出版 1977年)
古本屋で働いていて最高の瞬間。それは、胸打つ本との劇的な出会いや運命的な再会のときである。
今回ご紹介する絵本『もこ もこもこ』は、私が人生で初めて読んだ本だ。正確にはもっと幼い頃から読み聞かせなどで絵本に触れてはいるのだろうが、物心ついてから、自ら読みたいと感じ何度も繰り返しページをめくったのは、この本が初めてであったと記憶している。何が良かったか、どういう話だったかは全く覚えていないのに、この表紙と何度も読み返したという思い出は、私の人生の最初を鮮明に形づくっているのだ。偶然の再会ながらなんと感動的なのだろう、そう思ってこの年で改めて読み返した。
するとどうか。話の意味が分からないのだ。あんなに熱中していたにもかかわらず、この本のどこにそれほど熱中していたのか不思議なほど話の筋が読めない。
地面から何かがもこ、と生えてきて大きくなり、同時に生えてきた何かを食べる。そうすると何かがつんとできてきて、地面に落ちたあと膨張し、やがて破裂する。そして空中には何かがふわふわと漂い、最終的には何もなくなる。そして最後のページでまたもこ、と何かが生える。
あまりに抽象的で、この本にはいったいどんな意味が込められているのか、全くもって理解できない。これは私だけなのか?と疑問に思ってネットで様々な感想を見てみると、やはり多くの大人は奇妙に感じるようである。だが、なぜか子どもたちからは発行以来不動の人気を得ている。抽象的でシンプルな絵とオノマトペだけなのに、どうしてこれほど子どもは興味を惹かれるのか。
考えてみれば、簡単なことではないだろうか。おそらくこれは、この世に生まれてから何年も経っていない子どもの目に映る世界そのものなのだ。まだ大人ほどには発達していない子どもの眼や脳は、細やかな色味や立体的な陰影を区別せず、分かりやすくコントラストのある色の輪郭によって物を認識する。言葉の意味や基本的な文法をまだ知らないから、そうやって認識されたものは、名前や動詞によっては表現されることなく、ただ感覚に訴える音のイメージとして形容される。
面白いのは、全てのページが完全に別々のものではなく、軟らかなつながりがあるという点だ。大人のようには物の名前や意味、因果関係を知らずとも、それでもAが起こるとその次にはBが起こるというような、微かながら確かな規則性を、子どもは知っている。大人にとっては、つながりがあるように見えるのにその内容が説明されないために、なんだか奇妙で意味が分からないストーリーになってしまう。しかし実はそこには、子どもにとっての世界の見え方が、素直に素朴に描かれているのだ。こうした大人と子どもの認識の違いが、『もこ もこもこ』の受け取り方のギャップを生じさせているのではないだろうか。
自分が成長して改めて読み返し、なぜかつて読んだ時と全く違う印象を感じたのかに思いを馳せてみると、やはり子どもの時分においても大人になって以降でも、感じ方は違えどいつでも変わらず心躍らせる本と出会える経験は大変貴重だろうと実感する。皆さんも、かつて読んだ本を、大人になった今こそ新たな感性で読み返してみてほしい。きっとあなたの人生に寄り添ってくれる1冊となるはずだ。
書き手 小松貴海
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