鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。
川上和人(新潮社 2017年)
学者、と聞いてどのような人を思い浮かべるだろうか。教科書に載るような大発見をした博士、ニュース番組のコメンテーターとして活躍する専門家、あるいは学生時代に出会った印象深い教授…。いずれにせよ学者には、少し変わった人というイメージが付きがちかもしれない。
そんな学者のなかでも、『鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。』の著者・川上和人は、際立って面白い人物だ。彼は二つの顔を持っている。一つは、東京大学農学部を卒業後、国立の研究機関に所属し、研究論文を多数発表している優秀な研究者の顔。もう一つは、自身の研究生活を、ユーモア交えて軽妙に綴るエッセイストの顔である。
本書はそんな川上が、鳥を追いかけ東西南北を駆けまわる、鳥類学者としての奮闘記だ。ある日は噴火真っただ中の孤島へ、またある日は死屍累々のジャングルへと調査に赴く。生態系を守るため、鳥類学者なのにヤギや外来植物とも戦い、夜間調査ではライトに引き寄せられた蛾の襲来に恐怖する。冒険のような出来事が、次々繰り出されるジョークと共に、おもしろおかしく綴られている。調査で出会った鳥類についての知識もわかりやすく説明されており、本書を手に取った人は、つい鳥類学者の仕事に魅せられてしまうだろう。
しかし、当たり前のことだが、研究者の仕事はフィールドワークばかりではない。データの分析や論文執筆など、むしろ地味な作業のほうが多いのが現実だ。また、本書で綴られている出来事も、読者として一歩離れたところから見てこそ面白そう、楽しそうと思えるのであり、よく考えてみると危険な体力仕事ばかりで、「鳥が好き」というだけでは続けていけそうにない。
では、三十年以上も鳥類学者の仕事を続ける川上を、突き動かしているのはなんなのだろうか。本人がテレビ番組のインタビューにて語ったところによると、それは単に「鳥が好き」というより、 「鳥を研究することが好き」という気持ちだという。『鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。』という題名に反して、自身の調査や研究を語る文章が生き生きとしており、そこには確かに愛と情熱があるように見えるのはそのためだろう。「知りたい」という強い欲求が、情熱の源となり、鳥類学者の川上を形作っている。
そしてこの「知りたい」という欲求は、誰もが持ち得るものである。鳥類学者は特殊な職業だが、知的好奇心を満たすことの喜びは、鳥類学者でなくとも味わうことができる。「知ること」は魅力的だ。そして、「知ること」を追い求める人間もまた、魅力的だ。そんなことを教えてくれる本書は、鳥類についての本であると同時に、“人間賛歌”なのである。
書き手 伊東愛奈
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