三びきのやぎのがらがらどん
絵/マーシャ・ブラウン 訳/せたていじ(福音館書店 1965年)
力強さを象徴する生き物というと、何が思い浮かぶだろうか?
多くの人はライオンやトラといった肉食動物や、ゾウのような体の大きな動物をイメージすることだろう。しかし『三びきのやぎのがらがらどん』では、意外なことにヤギが勇猛さを示してくれる。
三匹のヤギたちが恐ろしいトロルを打ち倒すこの絵本は、ノルウェーに伝わる民話を元に描かれた。マーシャ・ブラウンによる絵本が日本で1965年に刊行されて以降、増版100刷を超えるロングセラーを誇っている。
ヤギたちはいずれもがらがらどんという名前で、橋を渡って谷を越え、潤沢なエサを得るために山へと向かおうとする。しかし橋の下には大きく不気味なトロルが住んでおり、山に行くにはそこを通らなければならない。そんなトロルをヤギたちが倒し、無事に豊富なエサにありつくというのが、大まかなあらすじだ。
一番目の小さなヤギ、二番目のヤギは「自分より大きなヤギが来るから、食べないでくれ」とトロルに訴え、トロルはそれを聞き入れる。三番目の大きなヤギも同様にして橋を渡るかと思いきや、彼はトロルに勇猛に立ち向かい、見事打ち倒すという結末だ。そうして三匹は山へと無事に辿り着き、草を食べているところで物語が終わる。
一般的に得られる教訓としては、トロルのように欲をかいたら、自らの欲のせいで破滅してしまうというものだろう。
絵本を描くのに使われている色彩は、ブルー、イエロー、ブラウンと白黒の合計五色のみ。森のグリーンの色味はブルーとイエローを重ねることで作り出されている。華やかな黄色によって、太陽に照らされ萌える草木を豊かに表現しているのが新鮮だ。そのシンプルな色合いは時代を感じさせるが、ブルーとイエローの強いコントラストや、猛々しい絵のタッチは、時に厳しい悠然とした北欧の大自然をダイナミックに描いている。
また、木々や川、森などの背景を抽象化する一方で、ヤギやトロルといった登場人物においては、立体的な画角から描写しているのがとても印象的だ。独特の空間的広がりがあり、どこか絵本らしくない、映画やドラマのような雰囲気が感じられる。
『三びきのやぎのがらがらどん』における最大の見どころは、この作品が成長物語として読める点だ。
ヤギたちはいずれもがらがらどんという名前である。小さく臆病なヤギから、力強く雄々しいヤギへとだんだん変化し、かつて恐れていたものに打ち勝つのだ。ヤギたちが橋を渡る効果音が「かた こと」から「がた ごと」、そして「がたん、ごとん」へとだんだん重みを増すことや、大きなヤギだけ「ひどく しゃがれた がらがらごえ」だと描写されるのは、身体的に成長していくことの表れだ。心身ともに、幼い姿から立派な青年へと様変わりしていく。
小さな読者たちにとって、この大きなヤギは、いずれこうなるだろう将来の自分の姿なのだ。大人からすれば、トロルがヤギに木っ端微塵にされる所などは、ともすればやりすぎのように見えるかもしれない。しかし、子どもにとっては、そのヤギの勇姿は純真な力強さ、憧れるべき勇敢さなのである。
最後に、雑談めいた話だが、この昔話はスタジオジブリの普及の名作『となりのトトロ』にも登場する。エンドロールで、サツキとメイのお母さんが二人に読み聞かせている絵本のタイトルが『三匹の山羊』だ。宮崎駿監督も、ヤギたちの物語と姉妹の成長を重ね合わせていたのかもしれない。
書き手 小松貴海
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