「ひとり暮らし」
谷川 俊太郎(草思社 2001年)
谷川俊太郎の文章は得も言われぬ「おちつき」や「身軽さ」がある。
それは長年言葉で生きてきた人が持ちうる性格なのだろう。彼の生きる姿は軽やかでありながら、語る言葉は決して軽薄ではない。かといって説教のように重苦しいものでもない。己の経験を通して自分の力量を把握し、不確実な社会や種々の現象を通じてより是を認めることをできるものを慎重につまみあげて言葉に換える。そうやってエッセイ「ひとり暮らし」はできたのだろうかと想像する。
この本は各所に掲載されたエッセイ群「私」、一文字の言葉について語られた「ことばめぐり」、1999年から2001年の日記の抜粋「ある日」で構成されている。それぞれの文章に通底しているのは谷川俊太郎自身が「独り」であるというところだと私は思う。
例えば、「結婚式より葬式が好きだ。葬式には未来がなくて過去しかないから気楽である。」
形ない「幸せな未来」を想うことばかりでむしろ不安定になる結婚式よりも、そのような不確かな未来など希う必要のない葬式の方が心持ちが楽だという彼の言葉である。人間はどれだけ財産やつながりを持っていたとしてもどうしようなく一個体でしかなく、誰もが循環する生体を持ち、最後には死ぬ。朽ちた身体は財産や名声を愛でることはできない。そして死んだ本人はもう誰とも関係性は築くことができない。
それを谷川は悲しむどころか、どこか楽しそうに歌うのである。誰にも期待されたり、望まれたりしないということは本人にとって好きなようにいられる、そのままでいても誰にも文句を言われないということでもある。それはある側面ではとても気楽で幸せなことではないだろうか。
この本ではそんな気楽さ、落ち着き、ひいては孤独であることの豊かさを教えてくれる。
書き手 上村麻里恵
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