はじめてであう すうがくの絵本 2
安野光雅(福音館書店 1982年)
島根県津和野生まれの絵本作家・安野光雅(1926~2020)は94年の生涯で数多くの絵本や挿絵を手がけた。古き良きヨーロッパを思わせる田園風景や街の様子を鳥瞰で描いた『旅の絵本』シリーズ、小人に誘われ騙し絵のような家を探検する『ふしぎなえ』などが代表作である。自然や街並みを精緻で優しい色使いで描き、学問への深い造詣を若い世代に伝えようとした姿勢は今日も根強い人気がある。
本書は『はじめてであう すうがくの絵本』の3冊シリーズのうちの2冊目である。数学に関する基本的な概念を専門的な用語を使うことなく、生活雑貨や絵本らしいシチュエーションを交えて紹介している。1から3に向かうにつれてより高度で数学らしい概念が現れる。2はその中間の立ち位置をとっており、小人が操るある機械を通して変化の違いについて考える「ふしぎなきかい」、もの同士の相違を比較する「くらべてかんがえる」、点描やタイルから座標や粒子にまでも思いを馳せる「てんてん…」、ものの数を簡単に数えることについて考えた「かずのだんご」、そして固体として数えられない水や砂糖、時間の数え方を突き詰める「みずをかぞえる」の5編から成り立っている。
この作品の凄さは数学の見方や概念が教科書的な説明をほぼ行わず、絵やストーリーを通して数学のアイディアを感じることを促している点だ。確かにこの絵本を初めて手にする時、諸概念を即座に理解することはないだろう。しかし安野がこの本の後書きでヘレン・ケラーが初めて水という言葉を物質とそのもののつながりを理解した瞬間のことを描いているように、体験と概念が一致した時の理解の深さは他では得難い感動となる。
コンピューターの様々な動作、クレジットカードの決済処理、インターネットゲームにおける諸効果の計算、調味料や水の計量(なぜみんなが同じ単位を使えるようになったのか?)など、現代生活の基盤には数学が欠かせない。しかし演算処理がいちいち画面に表示されていてはゲームを満足に進めることもできないし、計量のプロセスを調理のたびに辿っていてはとても料理など作っていられない。うっかり忘れてしまいがちどころか、わたしたちは「無限や複素数がこれから生活にどう役立つのか」とさえ思ってしまうが、数学は控えめながらも生活の命脈を保つために確実にそこにいるのだ。先ほどあげたコンピューター演算の例は今やあまりにも高度化・専門化している。絵本で提示されている内容とはもはや別物かもしれない。だが、根源を味わうことは知らずにいることよりもずっと豊かで楽しく、そして見えていない何かを想像できる力にすらなりうるはずなのだ。
生活の中に潜む数学、数学が脈々と生きてきた様を確かに語り継ぐ1冊としてこれからもこの本が愛されることを願ってやまない。
書き手 上村麻里恵
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