「木の酒」造りへの挑戦 〜日本最北のビール工場から~ 第6話
お酒の価値 ~オー・ド・ヴィー〜
こんにちは。今回も蒸留酒についてお話ししていきたいと思います。
前回はウイスキーとジンについて触れました。今回はお酒の価値についても少し触れていきたいのですが、その前にちょっとオー・ド・ヴィーについて説明します。オー・ド・ヴィーとは一般的にブランデーのことを指す用語で、言葉通りに読めば「命の水」。語源に遡ればウイスキーなどもこの名で呼ばれていました。
ブランデーは主に白ワインを蒸留して作る蒸留酒ですが、ほかの果物から作った醸造酒を蒸留したものもあり、それらは総称してフルーツ・ブランデーと呼ばれ、オー・ド・ヴィーもフルーツ・ブランデーとしての意味を持っています。
千葉県に「MITOSAYA 薬草園蒸留所」という、閉園になった薬草園を受け継いだ蒸留所があります。そこでは元薬草園である園内に植わった様々な植物の実りや、その周辺で育てられている果物などを中心として、蒸留酒が作られています。
MITOSAYAではFarming Fridayという、園内の庭の手入れのお手伝いを受け入れる形で薬草園を解放している日があり、そこにお邪魔した時のこと、午前中の目標としていた作業を終えて園内を
散歩していたところ、庭の片隅でヤマモモが真っ赤に熟しているのを発見。その完熟具合を見て、「これは早く収穫しなくちゃ」とスタッフの皆さんが準備を始めました。
とりあえず実際の作業は午後に持ち越すことにして、来園されていた方々とMITOSAYAの皆さんとでお昼休憩。
蒸留所はご夫婦がメインとなって運営されているのですが、その奥さんが作ってくださったおにぎりをいただいて、午後の作業へ。私は蒸留所内でプラムを切るお手伝いをして、そろそろひと段落かな、というタイミングで今さっき収穫されたヤマモモがどっさり。それを洗って乾かして…と、目まぐるしく蒸留所の1日は過ぎて行きました。自然の実りを、新たな姿にするために手を入れる。その一連の流れをこの目で見たことで、酒造りは土地に根ざして始まったのだという思いを深くしましたし、それを体現しているこの蒸留所のパワーの一端に触れることができたことは、忘れられない思い出です。そしてまた、蒸留所の思い出とともにMITOSAYAのオー・ド・ヴィーのボトルを眺めて、グラスに注いだ液体から立ち昇る果実のふくよかな香りを吸い込む時間は、何物にも代え難い、静かな喜びの時間になりました。
『大体、どこの酒でも、いい酒であればある程がぶ飲みするように出来ていない。飲みにくいというのではなくて、酒は上等になるのにしたがって味その他が真水に近くなり…(中略)水に近いだけでなくて更にその他に何かがあり、分析すればこくだとか、匂いだとかになるその何かががむしゃらに飲もうと逸る気を引き留める。…(中略)それをゆっくり楽しもうと思えば、ゆっくりする他はない』
これは海外文学の翻訳者でもあった吉田健一の「酒と人生」というエッセイの一節です。この「ゆっくりする他はない」というところに注目してみたとき、吉田が「こくだとか、匂いだとか」と言っている所に、私はつい「歴史」も付け加えたいと思ってしまいます。もちろん、どんなに歴史があっても味にピンとこない場合もあるでしょう。しかし、味や香りの要素が一体どんな過程を経て、今、目の前にあるのか。それを想うことは決して、その飲み物を過剰に持ち上げることではなく、そこに詰まっている、目には見えない価値を心のうちで創造することだと思います。例えば、先ほどお話しした蒸留所での出来事を思い出しながら飲むことや、ジャパニーズウイスキーに関していえばそれが認められていく苦労の過程を想うこと、ワインや日本酒においても、原料となる農作物を収穫するまでの生産者の苦労、造り手の気配り、そういったお酒にまつわる歴史に思いを馳せることは、こちらからそれを楽しもうとする姿勢があれば可能なことです。液体に詰まった時間の積み重ねを、こちらも時間をかけてゆっくり楽しむ。そういう時間は飲み手の心の中にしか生まれないものですが、だからこそ、誰にも奪うことのできない、その人だけの大切な時間になりうるのではないかと思います。
いかがでしたでしょうか。今日まで醸造酒、蒸留酒についてお話を続けてきました。次回からはいよいよ、木からお酒を作ることについてお話しして行きたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
(株式会社美深白樺ブルワリー・名寄新聞社通信員・野崎知真) 株式会社 美深白樺ブルワリー 関連記事はこちら
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