「木の酒」造りへの挑戦 〜日本最北のビール工場から~ 最終話
木の歴史を飲むこと
前回は木の酒を作ることについてお話ししました。最終回となる今回は、木の酒を飲むこと、楽しむことについて見ていきたいと思います。
まずは木の酒の香りと味わいについて。木材を糖化して発酵させると、アルコール度数1~2%の発酵もろみが出来ます。この発酵もろみを絞って、その上澄みを取ることで透明な美しい色合いの醸造酒ができます。この時の色は木材の種類によって違い、白樺なら黄色系、桜であれば紅に近い赤色で、時間が経つにつれ色合いには変化も生まれます。こちらを蒸留すると液体は透明になりますが、香りはより凝縮され、白樺は爽やかな白ワインのような香り、桜は桜餅のような優しい香り、杉は特有のウッディな香りなど、それぞれの特徴のはっきりしたお酒が出来上がります。
木の酒は木を原料とします。これまで酒の材料となっていた果実や穀物は季節ごとに採れる収穫物でしたが、木は何年もかかって成長し、種から芽を出した最初の年から地球上で呼吸をし、生活を続けています。
樹木は成長の過程で、大気中の二酸化炭素と根から吸い上げた水とを原料にして、太陽エネルギーと葉緑素の働きで糖を作り、酸素を放出します。作られた糖は成長のためのエネルギーに使われたり、樹木の組織を構成する成分に変化し、樹木の身体となります。樹齢100年の木なら100年前の空気から二酸化炭素を取り込み、それを原料として身体を作っており、その木材をそのままアルコール発酵させてお酒を作るということは、樹木が100年かけて取り込み続けてきた大気中の炭素をお酒にして取り込むことにほかなりません。その100年という時間の積み重ねをお酒に変えて身体に取り込み、彼らが地球上に存在してきた時間に想いを馳せて飲むことは、不思議な、面白い体験ではないでしょうか。
また、清潔な木材であれば建築材であったものや倒木でも木の酒の製造は可能のため、伊勢神宮が20年に一度行う式年遷宮の際の旧社殿の木材や、台風等で倒れた神社の御神木なども木の酒にすることができます。これらをお酒にすれば文字通りの「御神酒」であるとも言えますし、蒸留酒としてアルコール度数を高めれば保存性も高く、歴史の詰まった木を新たな姿で長期間保存することが可能です。
私は神奈川県鎌倉市の出身なのですが、2010年3月に鎌倉にある鶴岡八幡宮のシンボルであった、樹齢500年を超えると言われる大銀杏が倒れてしまいました。歴史あるイチョウをなんとか活用しようと、倒木の一部は鶴岡八幡宮内にあるカフェに展示され、枝などはお守りとして販売されたのですが、もしこの時、木を酒にして残す事が出来たらどうなっていただろう…と思ってしまいます。このように木のお酒は、私たちの文化にも新たな一面を見出す可能性を持った技術ではないかと思います。
いかがでしたでしょうか。ここまで8回に渡り、様々なお酒についてお話ししてきました。気になるお酒はありましたでしょうか。普段何気なく飲んでいるお酒にも作り手がいて、先人の知恵を活かした酒造りを行っています。また、最新研究によって「木の酒」のような新たなお酒が生まれてくるなど、お酒の世界は様々な発見や驚きに満ちています。それを「おいしい」「楽しい」というシンプルな気持ちで受け取ることができれば、あなたも立派な酒飲みの仲間入りです。この記事を通して、みなさんのお酒とのお付き合いが少しでも広がればうれしいです。
ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。なお、今回紹介した新しい木の酒の技術開発は、生研支援センターのイノベーション創出強化研究推進事業「木の酒の社会実装に向けた製造プロセスの開発と山村地域での事業条件の検討」で行われています。
(株式会社美深白樺ブルワリー・名寄新聞社通信員・野崎知真) 株式会社 美深白樺ブルワリー 関連記事はこちら
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